「!!」

声なき気合いと共に先程の倍の数ともに再度の攻撃が繰り出される。

「志貴!露払いは任せろ!王国よ(キングダム)!」

再び『聖盾・玄武』を構えようとする志貴を制するように士郎が『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』を高々と掲げる。

それと同時に背後の空間の一部が歪み志貴には見慣れた『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』の一部が姿を現す。

これもまた剣神に認められた者の特権。

この剣を持つ限り任意で現実世界と『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』を繋げ、そこから宝具を招聘する事が出来る。

「邪魔はさせぬ!」

「やらせるか!『猛り狂う雷神の鉄槌(ヴァジュラ)!』」

『六王権』の咆哮と共に壁と思うほどの猛攻が志貴目掛けて発動され、士郎が剣を振り下ろされるや、『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』からは雷神の鉄槌が豪雨の様に放出、志貴を守る様に『六王権』のそれと激突する。

鼓膜を破るほどの轟音が辺りの全てを震わせた。

七十『冥王の眼』

次々とぶつかり合うあらゆる弾丸と雷神の鉄槌。

その威力は互角でぶつかり合っては相殺されていく。

その間隙を縫い、志貴が『六王権』の肉薄を図る。

それを見るや一部を志貴に差し向けようとするが、それを士郎は許す筈はなく、攻勢を強めていく。

威力、数、共に互角と判断するや、今度は自らの腕の『タイタン』のそれに変え、士郎と志貴まとめて押し潰そうとする。

士郎がそれにも迎撃に赴こうとするがそれを見通していたように攻勢を強めた為、その防衛に手一杯で身動きが取れない。

それを見るや

「士郎、任せろ!」

今度は志貴が

―極鞘・朱雀―

炎の神剣を招聘、素早く構えるや

―煉獄斬―

極炎の斬撃が巨石の腕と激突、それを弾き飛ばす。

「ぐっ!」

「くっ!」

その反動で志貴、『六王権』双方ともに体勢がよろめく。

志貴は特に追い打ちされる事なく直ぐ体勢を立て直すが、『六王権』はそうもいかず、拮抗が崩れるや士郎の鉄槌がスコールの様に降り注ぎ、玉座の間を遠慮もなく破壊していく。

「・・・どうだ、少しは効いたか・・・」

だが、そんな士郎の呟きをあざ笑う様に、鉄槌の雨を隙間を縫うように水の弾丸が襲来、士郎の身体を貫く。

「がっ・・・」

血をまき散らし倒れる士郎。

「士郎!」

思わず士郎に駆け寄ろうとするが

「よそ見している場合か死神よ!」

ヴァジュラの猛攻を耐え凌いだ『六王権』が背後に六色の球体が浮遊している。

それは紛れもなく、先刻、『六王権』の体内に入り込んだ宝玉。

「幻獣王そのものの砲撃、受け止めきれるか?・・・いけ!ジン」

そう言うや赤色の宝玉から紅蓮の巨人、幻獣王『ジン』が飛び出し志貴目掛けて驀進する。

「!」

未だ展開していた『神剣・朱雀』を再度構え直す。

―煉獄斬―

撃ち出された極炎の斬撃と幻獣王がぶつかり合う。

刹那だけ拮抗するかに思えたが志貴の煉獄斬は『ジン』を切り裂く。

だが、『ジン』も消え去る寸前にその腕が志貴から『神剣・朱雀』を弾き飛ばす。

「!」

「まだ行くぞ!タイタン!」

今度は灰色の宝玉から岩石の人形『タイタン』がやはり飛び出す。

朱雀を拾い直す余裕はないと見るや

―極鞘・青竜―

竜の槍を展開、そして

―竜脈獄―

竜脈を解放、『タイタン』を阻む大地の防壁が幾重も床から隆起する。

それを剛腕をもって次々と破壊し志貴に迫るが、最後の防壁を破壊したその剛腕を『豪槍・青竜』の一突きで貫き、撃ち砕く。

だが、『タイタン』も砕かれるだけでは終わらなかった。

粉々になった腕の一部をまき散らし、それでも志貴を弾き飛ばす。

「うぐっ」

空中で体制を立て直し着地するが、弾き飛ばされた反動に『豪槍・青竜』は志貴の手から離れやや離れた場所に転がっている。

そして当然だが、それを取りに行かせる時間はやはり与える事無く、

「ウンディーネ!」

紺碧の宝玉から水の女神が姿を現し、手をかざすや水の奔流が志貴を呑み込もうと迫りくる。

志貴はここで守りの切り札を切った。

―極鞘・玄武―

幾度となく志貴の命を救ってきた盾を前方にかざす。

―霧壁―

霧の壁は見事に水の奔流を受け止める。

しかし、『六王権』はさらなる一手を打っていた。

「シルフィード、行け!」

薄緑の宝形から現れた風の少年は風の刃を縦横無尽に暴れさせる。

当然だが、志貴は『霧壁』が存在する限りかすり傷すら与える事は出来ない。

しかし、この場にいるのは志貴と『六王権』だけではなかった。

風の刃はいまだに倒れ伏している士郎にも容赦なく襲い掛かっている。

幸いなのか、それともわざとなのか、まだ士郎に直撃はしていないが、このままでは直撃は時間の問題だった。

「士郎!」

当然だが、志貴に士郎を見捨てると言う選択肢はない。

『聖盾・玄武』を放り出し、その手に最速の力を手にする。

―極鞘・白虎―

―疾空―

風よりも速く志貴は士郎を担ぐように避難する。

その直後、士郎の倒れていた場所に風の刃が殺到する。

完全に回避したかに思えたのだが、全ては『六王権』の狙い通りだった。

「忘れたか?まだこっちには二つあるぞ」

その言葉に裏打ちされるように、白と黒の宝玉から二体の天使が姿を現し力を放出する寸前だった。

「!」

「終わりだ。ルシファー!ガブリエル!」

『六王権』の宣告と同時に光と闇の砲撃は志貴と士郎を呑み込んだ。









『!!!!』

ほぼ同時刻、『闇千年城』前で何もする事も無く、いや、何も出来ずにただ、そこで佇む事しか出来ない一堂は一斉に不吉な胸騒ぎを覚えた。

それはパリから東に解放戦を指揮するバルトメロイも同様だった。

言い知れぬ不安を覚えるが

『・・・・・・』

それぞれに縁深い人と視線をかわして、それを強引に打ち消す。

志貴は、士郎は絶対に無事だと。

必ず二人は自分達の元に帰ってくると。

そう約束したのだから。









光と闇の奔流は二人を呑み込み細胞一つすら残す事無く消滅させたかに思えた。

しかし、それは違っていた。

「おおおおお!!『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』!

意識を取り戻した士郎がその手に持つ、『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』を発動、完全に拮抗いや、押し込み始めていた。

よくよく見れば、志貴はその後方で倒れ伏している。

その服はすべてボロボロ、上半身はもはやぼろきれを纏わりつかせているのと大差のない状況になっている。

あの時、とっさに志貴は自分を庇い深刻なダメージを受けてしまった。

最も直撃を免れたのは不幸中の幸いであったのだが。

しかし、そのおかげで士郎は自身の『象徴(シンボル)』の発動に間に合ったわけであるのだが。

「代理人の象徴(シンボル)か・・・ルシファー、ガブリエルでも分が悪いか・・・」

その言葉のとおり、『六王権』のそれと士郎の『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』、その勢いの差は自明の理だった。

「それならば・・・下がれ幻獣王達」

その時何を思ったか全ての幻獣王をあの宝玉に戻す。

それを見過ごす事無く士郎は『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』の力をもって『六王権』に肉薄する。

その時間は五秒そこそこだった。

だが、その五秒余りで事態は急変する。

―アルティメット・ブラックホール―

『六王権』が招聘したブラックホールで士郎をその超重力で押し潰す腹つもりかとも思われたがそれを直ぐに消す。

「『剣の代理人』、お前の『象徴(シンボル)』の力と我が主君より預かりし幻獣王の力、他ならぬお前自身の身体で味わえ」

―アルティメット・ホワイトホール―

そう言うやホワイトホールを展開、先程ブラックホールで呑み込んだ『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』の威力をそのまま士郎に向けて叩き付ける。

それも六体の幻獣王の総攻撃と言うおまけまでつけて。

「!!」

一対一、もしくはこの『象徴(シンボル)』の力が何の制約も持っていなければこの状況でも士郎が押し勝っただろう。

しかし、代理人が使うそれには大なり小なり制約が課せられている。

特に士郎の『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』は本来、終末直前の世界が他の並行世界に悪影響を与えないよう、その世界を速やかに消滅させる為に剣神が振るう剣、代理人が振るうそれの威力は四割にも届かないほど弱体化している。

その状態でこれと対等に渡り合う事は不可能だった。

しばし拮抗していたが、士郎の方が耐えかね遂に力負けした。

吹き飛ばされ、柱に叩き付けられた士郎は血を吐き出して、『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』を手放し、大地に倒れる。

手放された『剣神より下賜されし報奨の剣(バウンティ・ソード)』は澄んだ音を立てて床に転がる。

その首からは俄か仕立ての包帯がほどけ、『影』との闘いで受けた傷が開き、再び血を垂れ流す。

半死半生と言った状況である志貴と士郎、そして無傷で立つ『六王権』、勝負は決したかに思えた。

しかし、

「ぅ・・・は・・・ははは・・・」

明らかな重傷であるにも関わらず士郎は笑っていた。

「ははは・・・お、遅えぞ・・・相棒・・・」

何故ならその視線の先には

「わ、悪かった・・・な、相棒」

最も頼りになる盟友が立っていたのだから。

だがお互いボロボロである以上これ以上の長期戦など不可能。

今の志貴に出来るのは一回だけの全力疾走。

士郎に至ってはかろうじて起き上がれる程度。

士郎が動けない以上、次の突撃で勝負を決めるより他に方法はない。

「・・・これが最後だ『六王権』」

「ああ、私も死にかけの人間をこれ以上いたぶる腹つもりはない。これで決める」

そういうや再度あの宝玉が展開される。

「行くぞ『剣の代理人』、真なる・・・いや、お前は既に至っているのだろう?『死神の代理人』

『六王権』の再度の問い掛けに今度はお茶を濁す事はしなかった。

「・・・これの本来の力が士郎の剣と同じであるのならな・・・」

当に自覚していた。

自分の『直死の魔眼』が長い時を経て、さらなる頂に駆け上がり、変質を遂げていたのは。

それを悟ったのはグランスルグとの戦いで一時失明していた時。

憶測に過ぎないが、視力と言うある意味余分なものを失ったからこそ、見えた地平と言う事かもしれない。

その時、志貴は自分の視力が失われたにも関わらず自分の眼が別の何かと繋がっていた事に気づいた。

それを義眼を入れて視力が回復してから自分の眼と繋がった何かを見るべく試行錯誤を続けていた。

そして今の志貴はそれを自由に切り替える事が出来る。

もうこの時点で志貴は『真なる死神』ではなく『六王権』が言っていたように『死神の代理人』に到達してた。

使えば直ぐに決着がついてもおかしくないほどの鬼札であるのだが、これを今までして来なかったのには理由がある。

これの負担が『直死の魔眼』の比ではないと言う事、そしてこれの呪縛は発動してしまえば、無差別に襲い掛かると言う事。

妻達や士郎はもちろん他ならぬ志貴自身をも蝕む死の呪い。

それが『死神の代理人』の『象徴(シンボル)』たるもの。

「・・・お喋りが過ぎた。これで終焉だ」

「ああ、お前がな!」

そういうや志貴は疾走する。

直前に士郎に一回だけ視線を送り、士郎はそれに頷いて。

「行け!!タイタン、ジン」

『六王権』の号令と共に大地と炎の幻獣王が志貴に止めを刺さんと迫りくる。

志貴も当然迎撃手段は持っていた。

―極鞘・朱雀―

―極鞘・青竜―

同時に床に転がる『神剣・朱雀』・『豪槍・青竜』が本来の聖獣の姿に立ち返り、ジン、タイタンを食い止める。

その合間を掻い潜り、志貴はさらに走る。

「くっ!ウンディーネ!シルフィード!」

直ぐに『六王権』も二の矢を放つが志貴も二の盾を用意していた。

―極鞘・玄武―

―極鞘・白虎―

聖獣に戻った玄武はウンディーネの水の奔流をその身をもってゆるぎなく受け止め、白虎は志貴をその背に乗せてシルフィードの刃から主を守り抜き、志貴を降ろした後シルフィードに体当たりをぶちかましてその動きを止める。

だが、

「忘れたか!!まだ私には二つ残っていると言っただろう!」

先程の同じくルシファー、ガブリエルが光と闇の砲撃を撃ち放つ。

「これで・・・勝ちだ私の」

「いいや、この勝負・・・」

その瞬間志貴の軌道が直角に急カーブする。

「・・・俺達の勝ちだ」

今まで志貴が壁になっていて見えなかった。

いや、志貴を仕留める事に頭が一杯になっていた為に『六王権』はその存在を忘れていた。

何しろ瀕死に近い重傷を負っていた彼が、さらに『影』と自分との死闘で魔力を使い果たした彼に出来る事など無いと思い込んでいた。

しかし、現実はどうか。

志貴と言う壁が消えはっきりと見える。

五又槍を構え膝をついた状態でありながらそれでも屈する事を知らぬ眼をしていた。

「轟く五星(ブリューナク)!」

真名と共に投擲された槍は五つの流星となって光の奔流を受け止め、

「革命幻想(クラッシュ・ファンタズム)」

限界まで注ぎ込んだ魔力の爆発で相殺される。

しかし、それでもようやく五つ。

闇の奔流が志貴を追尾する。

その時、士郎は『轟く五星(ブリューナク)』を発動させた時、すぐに懐から養父の形見たる銃を取り出し構え、引き金を引いていた。

もちろん装填されているのは魔弾。

魔弾は正確に闇の奔流を捉え接触する。

それと同時に、『六王権』の全身を激痛が走り血反吐を吐く。

「これは・・・『影』の言っていた・・・ま、魔術回路を・・破壊する・・・」

その瞬間、志貴は遂に『六王権』の懐に潜り込んでいた。

「!」

「・・・解き放つ時は今、我、冥王の許し得て刹那の時解放する」

志貴の口から出るのは自己暗示の解放、この言葉を口にしない限り志貴はあの力を解放する事は出来ない。

自己暗示による封印まで施さなければならないほどこれは危険極まりなかった。

そして真名を・・・『死神の代理人』のみに与えられた死の秘奥たるそれを解放する。

「・・・『冥王の眼(ハデス・ジャッジメント)』」

その瞬間、志貴の眼から全ての色が消え闇よりも深い黒に支配され、それに見られた『六王権』は恐怖も絶望もなく静かに受け入れた。

自分を待つのは完全なる死だけなのだと。

それと同時にとんと軽い音と共に『六王権』の胸に『七ツ夜』が刺さっていた。









死神の『象徴(シンボル)』、『冥王の眼(ハデス・ジャッジメント)』。

ただ一瞥するだけで、見た相手の身体全てを死点に変貌させる。

その力に通用しない存在は無い。

あらゆるものに死を下賜する。

現に、その力で見られた『六王権』の身体は全て死点になっていた。

そこを突かれた以上、もはや『六王権』の死は逃れえぬ決定事項となっていた。

「・・・私の負けか・・・」

先程までの激情全てが嘘の様に消え失せていた。

「・・・『剣の代理人』を度外視した事か敗因は・・・いや、お前には背を預けあう友がいたが、私には臣下はいても共に並び立つ友がここにいなかった事か」

ここにいない友・・・それが誰なのかは聞くまでもないし、返答を期待している訳でもないだろう。

「・・・一つ聞きたい。人は生きる価値があると思うのか?この星を己だけの物であるかのように独善的に食い荒し、死滅しようとも自分達の事しか見れぬ人に」

「・・・お師匠様も言っていただろ。それもまた一面だと。己の事しか見れない者がいる様に人の為に自分の全てを犠牲にするのもまた、人の性、それがある限り俺もお師匠様も人を信じるだけさ」

「そうか・・・では私も地獄なり・・・ここではないどこかでそれを見守ろう。そして・・・人が真に存続するに値しないならば必ず舞い戻ろう・・・この地に。それまで眠りにつくとしよう。お前が師と呼ぶあいつの・・・そばで・・・」

そう言って静かに『六王権』は眼を閉じ、志貴はその胸から『七ツ夜』を引き抜く。

同時に『六王権』は・・・『死徒の帝王』と呼ばれた最古の死徒は灰よりも細かく、霧散し消滅してしまった。

それを見届けた志貴は傷ついた身体に鞭を打ち、共に戦った盟友の元に向かう。

「生きてるか・・・」

「勝手に・・・殺すな・・・終わったな・・・これで」

「ああ、だが、まだだぞ。小学校の遠足じゃないけど皆の所まで帰るのが戦いなんだから・・・」

「そうだな・・・帰らなくちゃ」

そう言って士郎もまた、歯を食いしばり立ち上がった。

「帰るか・・・皆の所に」

「ああ・・・帰ろう」

その時、天井が崩れ始める。

「?おい、志貴・・・まさかと思うが」

「皆まで言うな。よくあるお約束って奴だろこれ。急いで脱出するぞ」

「こんな物騒極まりないお約束いらねえよ」

軽口を叩きながら覚束ない足取りで玉座の間を後にする二人。

その背後では玉座の間が崩壊を始めようとしていた。

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